アナリスト/アソシエイトの歩み方
アナリスト/アソシエイトの歩み方
コンサルタントの職位は、アナリスト/アソシエイト、コンサルタント、シニアコンサルタント、マネージャー、シニアマネージャー/ディレクター、パートナーの6つに大きく分けることができます。各職位はファームによって呼び名が異なりますし、アソシエイトとコンサルタントの間に、シニアアソシエイトといった職位を置いているファームもありますので、おおよその分類と解釈していただければ幸いです。
今回は、その中でも「アナリスト/アソシエイト」について、その役割やパフォームするための心構えや行動などを紹介します。
この記事をお読みいただくことで、コンサル業界に興味がある方にとってはアナリスト/アソシエイトがどのような職位なのかを把握できると思いますし、これからコンサル業界で働く方にとっては働く上で気をつけるべきことや心がけることの具体的なイメージが湧くと思います。また、既にコンサル業界で働いている方にとっても、今抱えている課題のヒントを得ていただけるよう、アナリスト/アソシエイトについて解説します。
アナリスト/アソシエイトの役割
コンサルティングファームに新卒で入って最初の職位がアナリスト/アソシエイトです。中途入社であってもコンサル未経験の若手であればこのポジションからスタートします。
アナリスト/アソシエイトのイメージを一言で言うと、「コンサル見習い」です。
チームの中の役割は、他のメンバーの補佐として、リサーチや分析、議事録、資料作成などの指示されたタスクをこなすことです。クライアントと直接話すこともありますが、基本的にはチームのメンバーとのコミュニケーションを取りながら仕事を進めます。
このように書くと「雑用」のような印象を受けるかもしれません。確かに、一人前のコンサルタントになるための「下積み」という位置づけではありますが、任される仕事は決して軽いものばかりではありませんし、目の前のタスクとそのタスクが生まれた背景と真剣に向き合い、頭と手を動かしバリューを発揮することが求められます。
アナリスト/アソシエイトが持つべき心構え
続いて、アナリスト/アソシエイトとしてパフォームするための心構えを紹介したいと思います。これらは私自身の経験や、現役コンサルタントの方々と伴走する中で得た知見をまとめたものです。
【アナリスト/アソシエイトが持つべき心構え】
- 目の前の仕事に愚直に取り組む
- 先回りと心配りを意識する
- コンサルの考え方や仕事への取り組み方に慣れる
- 任せられたタスクは時間内に完遂できるようにする
順に説明します。
1.目の前の仕事に愚直に取り組む
これは当たり前のことに思えますが、いわゆるコンサルタントという職業に対して、「論理でスマートに解決していく」「あまり泥臭いこととは無縁である」というようなイメージを持っている方もいらっしゃると思います。
アナリスト/アソシエイトはまだコンサルタントになって日が浅く、このような考えを持ったまま仕事に取り組んでしまうケースも珍しく有りません。例えば、指示されたことに対して、「もっと他にやるべきことがあるのではないか」とか「私がやりたいことはこんなことではない」と考えてしまい、タスクに全力を尽くせないことがあります。
常に自分のキャリアやバリューについて考えることは大切ですが、それによって目の前のタスクがおろそかになってしまっては元も子もありません。アナリスト/アソシエイトの段階ではプロジェクトやその中の仕事を選り好みせず、決してやる前から不満や文句を言わないようにしてください。そして、与えられた仕事にベストを尽くすことを第一義的に考えて仕事に取り組んでみる、ということを大切にしていただければと思います。
しかしながら、これは思考停止で取り組めばいいという意味ではありません。コンサルタントは、1年目であっても自分の意見を常に問われます。どうするべきか、どうしたいのかを考え続けてください。
2.先回りと心配りを意識する
与えられたタスクは、一見すると単なる作業に見えるものもあります。しかし、そのタスクの結果がプロジェクト全体の方向性を変えることもあります。自分に与えられたタスクが、プロジェクトの重要なピースであるという認識を常に持つことが大切です。
そのためには、プロジェクト全体の現状を把握した上で、各タスクがプロジェクトにおいてどのような役割を担っているかを把握した上で取り組むことが理想です。しかし、大型のプロジェクトにアサインした場合、アナリスト/アソシエイトという立場ではプロジェクトの現状を俯瞰することが難しいというのも事実です。
そこで、プロジェクト全体をトップダウンで把握しようとするのではなく、自分のタスクが絡む連鎖を意識するということが重要になります。自分のそのタスクがプロジェクトに対してどのような影響を与えるのか、タスク起点でボトムアップで考えるということです。まずは、自分が行うタスクを誰が受け取り、相手が次にどのように行動するかを想像します。さらに、自分のタスクの結果を場合分けし、相手の行動にどのような変化が起きるのかを予想して先回りするようにタスクに取り組むとよりバリューが発揮されます。
これらを実際に行おうとすると、「相手が次にどのように行動するか」を想像することがかなり難しいことに気がつきます。これを解決するためには、相手の役割や持っている仮説・タスクを把握することに加えて、その人が普段考えていることや性格を知る必要があります。つまり、結論としてはやや陳腐ですが、相手(多くの場合は上司)とのコミュニケーションが大変重要ですし、気持ちよくコミュニケーションを取ってもらうために、細やかな心配りをすることも必要です。いつ声をかけるべきなのか、コミュニケーションの手段は、直接、電話、メール、ショートメッセージ、どれが良いかなども考えます。オーバーに感謝をすることも重要です。質問をする際にも、オープンクエスチョンではなく、相手が「はい」か「いいえ」で答えられるようにクローズドクエスチョンにするように意識してみましょう。これが自然にできるようになってきたら、先回りと心配りができるようになってきた、と思っても良いかもしれません。
この先回りと心配りは、職位が上がってからも、むしろ職位が上がってからの方が重宝します。職位が上がると仕事の範囲も広がり、関わるメンバーも増え、クライアントとのやり取りも増えます。その中で、自分ひとりでできる仕事は限られます。情報を持っている人から早く正確に情報を取っていく必要があります。
3.コンサルの考え方や仕事への取り組み方に慣れる
コンサルティングファームに入って、誰もがぶつかる壁がコンサルの考え方や仕事への取り組み方です。とくに事業会社からコンサルティングファームに転職した方はいままでとの違いに大きく戸惑います。
特に戸惑うものが仮説思考と価値志向です。
仮説とは仮の答えのことです。コンサルは、イシューとそれを分解した各問いに対する仮説を考えた上で、その仮説が正しいかどうかの検証・修正をしながらプロジェクト全体や各自のタスクを進めていきます。このときの思考方法が仮説思考です。
また、コンサルは与えられたタスクをこなせばOKというわけではなく、バリューを発揮する姿勢とそのためのプラスアルファの行動が求められます。この考え方が価値志向です。
この2つについては、様々な書籍で詳しく書かれていますので、ここではどうすればそれらに慣れることができるのかという点についてお話します。
結論からお伝えすると、「他メンバーの思考や行動を真似る」と、「自分はここまでと線を引かない」の2つが仮説思考と価値志向に慣れるポイントです。
1つ目の「他メンバーの思考や行動を真似る」については、「2.先回りと心配りを意識する」で説明した先回りや心配りを実践する中で自然とできてきますので、慣れるという観点でいうと、2つ目の「自分はここまでと線を引かない」に意識を向けると良いと思います。
事業会社では一人ひとりの仕事範囲が明確になっている場合が多く、自分のタスクをこなすということが重要です。会社同士の関係でも同じで、例えばSIerがクライアントから仕事を受けるときにスコープを明確にするというのは常識です。スコープが不明確だとクライアントからの要望が尽きず、仕事が無尽蔵に増えていくと考えられているからです。そうすると無意識のうちに「自分はここまで」と線を引くようになります。さらに、コンサルになったばかりの頃は与えられたタスクをこなすのに精一杯なので、余計にその意識が強くなってしまいます。だからこそ「自分はここまでと線を引かない」と強く意識することが大切です。もちろん、すぐにできるようにはなりません。私が見ている中では優秀な方でも3ヶ月〜半年かかりますし、丸々1年かかってしまう場合も少なくありません。しかし、強く意識することで、より早くコンサルの考え方や仕事への取り組み方に慣れることができます。
4.任せられたタスクは時間内に完遂できるようにする
これは、アナリスト/アソシエイトのゴールといっても良いかも知れませんが、与えられたタスクを安定して時間内に完遂できるようになってくると、上司からの信用も溜まっていき、次の職位である「コンサルタント」にぐっと近づきます。
アナリスト/アソシエイトになって最初は、上司が期待する時間やクオリティでタスクを完遂することは不可能なのではないかと思われるかもしれませんが、いくつかコツがあります。
まず1つ目のコツは、タスクを頼まれた段階でアウトプットと作業設計の確認を行うことです。両方が難しくても、せめてアウトプットだけはタスクを頼まれたその場で必ず合意をとってください。アウトプットはタスクのゴールです。ゴールが分からなければ、全く見当違いの仕事をしてしまうこともあるので、アウトプットの確認は必須です。アウトプットは、口頭ではなく、紙などにイメージを書いて上司に見せるとより良いです。
2つ目のコツは、自分の80点は上司にとっては10点だと思うことです。100点をとるのに必要な時間を100とすると、80点までに20、のこり20点上げるのに80の時間が必要という考え方(パレートの法則)があります。さらに、自分が80点だと思っても上司からするとせいぜい10点ということがよくあります。もしいままでの4倍の時間を使って100点まで上げても、上司にとっては3点も上がらない計算になります。
そのため、ある程度の形ができた段階、点数でいうと30点くらいの時点で、早め早めに上司のフィードバックをもらい仕事の軌道修正を行うということを繰り返して100点を目指すことが重要です。
3つ目のコツは、先にフィードバックの時間を予約することです。ある程度の形ができた段階で上司にフィードバックをもらうとお伝えしましたが、これは「ある程度の形ができたら上司にフィードバックのアポを取る」ではないことに注意してください。上司は非常に忙しく、急に言われても時間が取れません。フィードバックが遅くなるとそれだけ、タスクの完遂までの時間が遅くなります。理想はタスクを頼まれた段階で完成までに必要であろうフィードバックの時間をすべて約束することです。難しければ(タスクの作業量によりますが)、前日にはフィードバックの予約をすると良いかと思います。
アナリスト/アソシエイトにおすすめのインプット(書籍等)
最後に、アナリスト/アソシエイトが、コンサルの知見を深めたり、情報収集する際に参考になる書籍等を紹介します。
- 入社一年目の教科書(ダイヤモンド社)
新卒の方向けです。コンサルに限らず社会人として働く上での心構えなどが易しくまとめてあります。 - 段取り力(筑摩書房 )
こちらもコンサルに限らない内容ですが、タスクに溺れないために必要な考え方を学べます。 - コンサル一年目が学ぶこと(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
コンサルに必要な仕事のエッセンスが軽めにまとめられています。まずコンサルの全体像を掴むのにおすすめです。 - 仕事の基礎力(すばる舎)
こちらも、コンサルに必要な仕事のエッセンスがまとめられていますので、「コンサル一年目が学ぶこと」と見比べてみてどちらか読むと良いかと思います。 - 思考論理分析(産能大出版部)
少し古いですが、思考とは何か、論理とはなにかといった「考えること」の根本を再度見つめ直すのに最適な一冊です。 - イシューからはじめよ(英治出版)
とても有名な書籍で、仮説思考などコンサルの思考法を具体例とともに捉えることができます。
また、コンサルに限らず広く社会人の方が読まれているものですが、日経新聞は世の中の動向を大まかにするために有用です。また、自分が関わっている業界については、◯◯業界の動向とカラクリがよくわかる本シリーズを読み、できれば業界紙にも目を通せると良いと思います。ただし、アナリスト/アソシエイトの段階では、得た知識を直接活かす機会は少ないため、なかなか情報収集のモチベーションが湧きづらいと思います。
しかし、職位が上がるにつれてそれまでのインプットが効いてきますので、アナリスト/アソシエイトの段階から毎日1~2時間は読書も含めてインプットに時間をあてる、土日はインプットする日と決めておくなど、モチベーションに関係なく情報収集ができるようにルール化しておくと良いと思います。
終わりに
これまでお伝えしたように、アナリスト/アソシエイトは雑用係ではありません。与えられたタスクの中で、どうやったらより高いバリューを出せるのか、手と頭をフルに使って仕事に向き合う必要がある職位です。
そして、コンサルタントとしての素地を作っていく期間でもあります。毎日をいかに丁寧に過ごしていくかが、その後のコンサルタントとしてのキャリアを大きく左右します。
実際にアナリスト/アソシエイトとして働いている方やこれから働く予定の方は、この記事を日々の指針にしていただければ幸いです。また、コンサルティングファームに興味を持たれている方にとっては、働くイメージを明確にする助けになっていれば幸いです。