ファームの最高職位であるパートナーへの道のり
これまで、アナリスト/アソシエイトからシニアマネージャー/ディレクターまで、その役割や心構えを紹介してきました。
今回は、その特別編として、コンサルタントの最高職位であるパートナーについて、「パートナーへ上がるために」という観点で紹介したいと思います。
パートナーを目指すコンサルタントの方はもちろん、すでにパートナーとして活躍されている方にとっても、改めてパートナーという職位について捉え直すきっかけにもなればと思います。
パートナーはシニアマネージャーやディレクターの延長線上ではない
コンサルタントのキャリアの中で、シニアコンサルタントとマネージャーとで役割に大きな違いがあることは想像がしやすいと思います。
シニアコンサルタントは現場の中核、そしてマネージャーはプロジェクト全体の責任者であり、両者は「現場」と「管理」のように、その役割は大きく異なります。
同じように、シニアマネージャー/ディレクターとパートナーの間にも大きな差があり、全く別の職業と捉え直した方が良いほどです。
シニアマネージャー/ディレクターに求められる役割は複数プロジェクトの管理と新規プロジェクトの創出、つまり、売上や利益といったビジネスKPIへの貢献であり、コンサルティングのバリューチェーンの中でのスコープはセールスとデリバリーに留まります。
その一方で、パートナーのスコープはコンサルティングのバリューチェーンの全てであり、セールスとデリバリーに責任を持つことはもちろんのこと、採用、育成、組織づくり等、チームや部門全体のあらゆる場面で意思決定を行い、その決定に責任を持たなければいけません。
コンサルティングファームは支援会社に分類されますが、パートナーはその中で異色の存在であり、事業責任者としての顔も持っています。
ファームを経営する仲間として認められることが重要
パートナーになるためには、今までの実績が一定水準を満たしていることは前提の上で、経験豊富な上位のパートナーの了解や承認が必要です。そのフロー自体はファームによって異なりますが、どのファームであっても以下のような観点から、「自分がなぜパートナーになるべきなのか」を示し、ファームを経営する仲間として認められることが必要です。
【パートナーへのプロモーションで訴求するべき観点】
- ファームと自身のビジョン
全社的な視点から自社(ファーム)がどうあるべきか、そのためには何をするべきなのか、そしてその中で自分自身はどうなりたいのか、そのビジョンを伝えます。自身のビジョンには正解があるわけではないので、自分の哲学やスタンス、経験に基づいてビジョンや方針を語ります。グローバルファームにおいては、グローバル全体のビジョンや方針(≒世界情勢にあったビジョン)との整合性も問われることがあります。 - ビジョン達成のための戦略
ビジョンを達成するための戦略も求められます。例えば、「金融業界のDXについて戦略策定から実行までワンストップで提供できる部門を組織する」というようなビジョンを掲げたならば、「競合他社が10%取っているA社においてリプレイスを進め、自社の寡占状態を作る」というようなセールス戦略はもちろん、「金融×DXの専門性マトリックスを埋めるようにディレクター以上の人材の確保を進める」のような採用育成戦略の説明も求められるでしょう。 - 実現プラン
また、戦略に基づいてビジョンを達成するまでの具体的な実現プランも求められます。さきほどの「金融×DXの専門性マトリックスを埋めるようにディレクター以上の人材の採用を進める」という採用育成戦略においては、「AI領域の第一人者であるBさんをチームごと引き入れ、そのコネクションを用いて部門の拡大を図る」といった具体的なプランを提示します。 - 現在のアクションやケイパビリティ
ビジョンや戦略、プランに対しての現在のアクションやケイパビリティ(専門性やソリューション)を伝え、それらが絵空事ではないことを伝えます。例えば、プランとして「金融業界DXにおけるマーケットの開拓」を挙げるのであれば、既にオファリング開発に着手していること、また、金融業界やDXにおいての実績を有していることが求められます。
パートナーへのプロモーションが難しい例
上記の観点を意識して訴求することがパートナーへのプロモーションにおいて非常に重要ですが、反対に以下のようなケースにおいては、パートナーへのプロモーションが認められない場合も少なくありません。
- 全社戦略が理解できていない
これから世の中がどのように動いていくのか、その中でファームはどのようなポジショニングを目指していくのか。
そういった全社戦略を理解し、それと整合するように自分のビジョンを語れなければ、経営する仲間としては他のパートナーから認められづらくなってしまいます。 - KPIが達成できていない
パートナーへのプロモーションの前提条件としてセールスやデリバリーのKPIを設定しているファームがほとんどです。これらのKPIが達成できていなければプロモーションの土俵にすら立てません。
また、個人のKPIだけでなく、チームのKPIに対してもどの程度貢献しているのかも見られます。 - 自分のビジョンを持っていない
「あなたがなぜパートナーになるべきなのか?」という問いに対して、例えば、「多くの同期がパートナーになってるから」や「他のパートナーに勧められたから」といった、自分の想いやビジョンが乗っていない回答では、仲間として迎え入れたいとは思ってもらえません。このようないわゆるサラリーマン的発想ではなく、自分を主語にビジョンを語れるようにしたいです。 - 自分の強みやスタイルを確立していない/理解していない
「ファームと自身のビジョン」「ビジョン達成のための戦略」「実現プラン」「現在のアクションやケイパビリティ」の4つは論理的に一貫していることが重要ですが、自分自身の強みやスタイルが反映されてないと一貫性が弱くなります。
例えば、これまでクライアント内での関係づくりを得意として案件を獲得してきたにも関わらず、これからは新規のクライアント開拓に注力するといったプランを掲げては、一貫性がありません。
これまでを振り返り、自分の強みやスタイルを理解し、それを踏まえたビジョン、プラン、アクションを考えると一貫性が出てきやすいです。 - ファームの求めるペルソナでない
パートナーはファームの顔です。ハラスメントやコンプライアンスなどの観点でのチェックはもちろんですが、ファームによってはパートナーはこのような為人(ひととなり)であるべきというように、ペルソナを想定していることも珍しくありません。そのペルソナに合っていないとなると、やはりパートナーへのプロモーションは厳しくなります。ペルソナまでは設定せずともファームによって評価観点や求める人物像は異なりますので、そのファームで求められる為人への理解は重要です。
繰り返しになりますが、パートナーへのプロモーションにおいて重要なことは、「ファームを経営する仲間として認められる」ことであり、定量的な観点だけでなく、定性的な観点も非常に重要視されます。
定性的な評価は、自部門ではないパートナーや、これまでのプロジェクトの上司や同僚、部下などからも数十人規模でインタビューがとられることもあります。
ですので、パートナーへのプロモーションは短期的な努力で達成できるものではないという認識が必要です。
日々の行動や態度が、目の前の結果や評価だけでなく、その先につながっているという意識をもって過ごさなければいけません。
もちろん、冒頭で述べたように、シニアマネージャー/ディレクターとパートナーの仕事内容には大きな差があります。しかし、チームやファームへの貢献は共通して意識するべきことであり、普段からそれを意識して行動できるかがプロモーションにおいては非常に重要な要素です。
これまで述べたように、パートナーへの道のりは非常に困難です。
しかし、パートナーとして全社視点を持ちながらも、自分だけのチームを作っていく、まさに一国一城の主としてファームの一翼を担う感覚は、それまでの職位では決して味わうことのできないものです。
中には、「パートナーが本当のコンサルタントの醍醐味であり、実はキャリアの中で最も長くなる職位だ。そういった意味で、コンサルタントとしてのキャリアのスタートとも言える。」とおっしゃるパートナーもいます。
長くなってしまいましたが、この記事を通じて、パートナーを目指す方の悩みや不安が少しでも解消できていましたら嬉しいです。